気を使う様子も見せずに体重を乗せてきた少女に、一方通行は迷わず舌打ちした。
扉を開ける瞬間から気配を消して入ってくるあたりが、同じ顔をした子どもと違って憎たらしい。
消した所で第一位の少年が気づかない訳も無いが、それは少女自身も承知しているのだろう。
上に乗った瞬間から一方通行が目を開けた事に、番外個体は一切の驚きも見せなかった。

同じ4LDKに住む同居人達は他に誰も起きておらず、今意識を持っているのは二人だけだ。
「何してンだオマエ」
「それってこの状況で聞く事?それとも言わせたいのかな」
一方通行の腹の上に手を置いて、番外個体は口角を片方上げた。
寝転んでいた一方通行は上体を半分程起こし、肘をつき体を支えると大きなため息をつく。
「人が寝よォとしてる時に……、」
「遊ぼうよ第一位」
話を遮って、番外個体はニヤけ面で一方通行に顔を近づけた。両手が、彼の体を圧迫する。
どうやらTシャツ一枚しか着ていないらしい。下腹部に当たっている足の感触がやたらと生々しさを伝えてくる。

少女は合わさっていた視線を一旦外し、瞼を閉じた。
きゅ、と太ももあたりに力が入って、瞼の上がった瞳は艷めいている。長い睫毛を震わせ、番外個体は更に顔を近づけた。
「ミサカと、夜の運動」
ゆっくりと唇を動かして、囁く。
ご丁寧に頬まで赤らめてみせて、わざとらしすぎる程にわざとらしい。
どこまでも素直な反応をする小さな少女を思い浮かべて、一方通行は早くも二度目のため息をついた。こんな演技力は一人だけで充分だ。
目の前の少女はそれを隠すつもりが全く無いあたり、まだマシなのかもしれない。愉しんでいるのだ。
「”意味は無い”ンじゃねェのかよ?」
「いやらしーい声が聞こえるかと思って。最終信号の部屋、隣だし」
体勢を変えぬまま、番外個体は打って変わっていつものような声で笑う。片手で茶色い髪を掻きあげると、悪意に満ちた笑顔がハッキリと見えた。
「いいじゃん別に。オンナノコが良いって言ってんだぜ」
滑らかな数本の指が、一方通行のシャツを捲りくびれを撫で上げる。
このままでは延々と出続けそうでキリが無い三度目のため息を飲み込んで、一方通行は番外個体を押し退けた。
ベッドの壁際に落ちた彼女は、意外な事に目を丸くする。フローリングの上に容赦なく落とされると予想していたからだ。
不要な優しさを押し付けられた番外個体は、ここで初めて腹立たしそうに目を鋭くさせた。
「何、やっぱり押し倒されるより押し倒すほうが好きなの?」
「早く出てけっつゥの」
「……ミサカ、結構おっぱい大きいのよ」


仰向けに寝転んだまま、番外個体は中途半端な形をした月が浮かぶ窓の外を見つめた。
横目で隣を見てみれば、いつの間にかすっかり起き上がっている一方通行が、こちらに背を向けてベッドに腰掛けている。
下手をしたらそこらの女子よりも繊細な首が、ダルそうに骨を鳴らす音が聞こえる。
「……ねぇ」
「あン?」
「あなたって、マジでロリコンね」
「すり潰すぞ」
間髪入れずに返って来たセリフを受け流して、番外個体は勢いをつけて起き上がる。
マットレスを踏みつけてフローリングに下りる。振り返ると、呆れた第一位の顔があった。
「つまーんないの」
「早く寝ろ」
シッシッと、犬を追い払う仕草で一方通行が片手を振る。少女は可愛げの無いカオで笑ってみせた。
「嫌われたかったら、いつでもミサカの体貸してあげる」

























2011/03/30
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