「オマエ、これ味見したンだろォな…?」
燃えるように紅い瞳がジロリと睨み付けて来る。
透き通る白い肌はどことなく青ざめているようにも見えて、少女は一歩後ずさりをしてしまった。

口元を片手で覆い、あいたもう片方で青白い少年はある一点を指差した。
少女は彼の指が示す場所を追って、そして大きく頷くと目標に向かってダッシュした。ゴールはキッチンの片隅にある大きな冷蔵庫。
いつもならば、どうして物を頼むのにそんなに偉そうなのかと文句のひとつも言いたいところだが、悲しいかな、原因はどこからどう見ても自分の作ったチョコレート菓子だ。
「ま、不味かったかなぁ…ってミサカはミサカは不安げに聞いてみる…」
冷えた缶コーヒーを流し込んでいく喉を見つめながら、少女――打ち止めは気まずそうに両手の指を合わせてぐるぐると回す。
手作りのものを不味いと断言されるのは、想像するだけで正直涙が出そうになる。
中身が半分まで減ったスチール缶を置き、一息零してから、一方通行はテーブルを挟んだ向こう側にいつ打ち止めに目をやった。
自身はソファに腰を沈め、相手は立っている為に見上げる形になっているはずだが、俯いている少女はひどく縮こまって見えた。
「……つーか、甘すぎンだろ」
不味かねェが。と小さな小さな声で付け足して、一方通行は皿の上に載ったブラウニーとやらを摘む。
しっとりした食感は悪くない。柔らかいので形はすぐに崩れるようだが、まぁ問題というレベルでは無い。
お菓子を作ると言い出した時には、一体どんな大怪我を負うつもりだと諦めさせようとした心配性の白い彼だったが
初めてにしては上出来と言っても良いだろう。ただし、あくまでも見た目の話だ。
「実は砂糖をちょっと多くしちゃったの、ってミサカはミサカはお茶目を演出する為に舌を出してみる」
「……ちょっと?」
「……すごく」
手が滑ってボールの中に物凄い量をぶちまけてしまいました、とはさすがに言えなかった。ちなみに味見はしていない。

打ち止めはテーブルを回り込み、一方通行の方向を向いて正座を崩した形でソファの上に座った。
「無理しないで残していいからね?ってミサカはミサカはお皿を下げる準備をしてみる」
一方通行は打ち止めと、手に持った二つ目とを見比べる。残さず全部食べてやる、なんていう見栄はどう努力しても張れそうには無い。
無言のまま何も答えないのを、皿を下げろという意だと受け取ったのか、打ち止めはそっと腕を伸ばす。
「待て」
一言そう告げると、打ち止めはピタリと動きを止めた。
まるで犬みてェだな、と思いながら、打ち止めの手首を掴む。
「どォせ味見してねンだろ」
「えへへ……、ってミサカはミサカは愛想笑いを浮かべてみたり…」
一方通行は、気まずそうに視線をずらす打ち止めの顔の前にブラウニーを差し出した。
目を丸くする少女の唇に、ぐいと押し付ける。ボロボロと小さく崩れたブラウニーがワンピースの上に落ちるが、気にする様子は無い。
「ちったァ無理してやるからよォ」
「?む、むぐ」
ほとんど無理やり押し込まれる状態で、打ち止めは初めて自分の作ったチョコレート菓子を口にした。
一度噛んで、二度噛んで、舌に触れ広がる味に、甘いものが大好きなはずの彼女の顔が歪む。いくらなんでも甘い。
自身の不甲斐なさにへこみながらも、打ち止めは水分を求める。
コーヒー…は飲めないので、同じテーブルに乗っかっている水の入ったグラスに手を伸ばそうとしたが、それは即座に阻止されてしまった。
何するの!と抵抗する前に、彼女の口は塞がれた。

生暖かな感触。くちびるとくちびるだなぁなんて間抜けな事を考えながら、打ち止めは目を閉じた。
その瞬間こそ驚きはしたが、なんせ触れたのは好きな人の唇だ。安心するなというほうが難しい話だろう。

一方通行はブラウニーを半分噛み切ると、打ち止めから離れて行く。
直後に再びコーヒーを流し込むものだから、味わっちゃいない。
「次はもっと砂糖減らせよ下手くそ」
「ま、まだ食べる?ってミサカはミサカは確認を取ってみる」
ほっぺを僅かに桃色に染めながら、打ち止めは試しに三つ目を手にしてみた。一方通行の眉間に皺が寄る。
「食いたか無ェな」
冷蔵庫の中にある缶コーヒーの数を思い出しながら、彼は少女の手からそれを奪い取った。

























チョコレイトキス
2011/02/23
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