常時反射が出来ないとなると、朝の眩しい太陽の光も勿論受けてしまう事になる。
ミサカネットワークに頼らなければならない体になり、当たり前でしかなかった反射が24時間体勢で使えなくなってからそれなりの時が経っているが
その眩しさに苛立ちを感じなくなるという事は無かった。

夜には月明かりを招き入れていたカーテンの隙間が、今度は太陽の光を招き入れたのを感じて、一方通行は眠りから覚醒させられた。
彼は思い切り顔を顰めて、しかし頑なに瞼を持ち上げない。
目が覚めたからといって頭まですっきり覚める訳では無いのだ。
(……あァ)
ふと感じた違和感に、一方通行は一度疑問符を浮かべたがそれはすぐに解決した。
自身の腕を枕にして眠っている少女の存在を思い出したからだ。
女と言われても不思議ではない程に細く白い腕の上に乗っているのは見た目10歳程の少女の頭だが
幼いとはいえ、力の抜けた人間の頭はそれなりに重かった。
じりじりと痺れている腕を動かしたくて仕方が無いが、小さな寝息が聞こえてくるのでどうにも動かせない。
すうすうと気持ち良さそうに眠る寝息を聞きながら、なンで俺が我慢しなきゃなンねンだ、とかなんとか
心の中で悪態をついてみたが、それでも少女の頭を腕から落とさないのは明らかに彼の意思だ。
一方通行は目を閉じたまま片手を伸ばしカーテンの端を掴む。
軽く引っ張ってみれば空いていた隙間を閉じる事に成功したので、彼は再び眠る事に専念した。


意識が上昇してくると共に首の後ろあたりが痛む事に気付いて、打ち止めは煩わしそうに寝返りを打った。
目を開けると、寝ている時は素直な表情の一方通行の顔が視界に入る。
打ち止めの丁度目の前には彼の僅かに開いた唇があり、その唇からは穏やかな寝息が漏れていた。
眠っている時の彼は、それを見ている打ち止めを飽きさせない。
寝言を言う訳でも寝相が悪い訳でも無く、じっと静かに眠る彼を見るのが好きだった。
お世辞にも寝心地が良いとは言えない枕は少女の首と後頭部に容赦なく痛みを植えつけたようだったが
それでも打ち止めは今現在、満足感に包まれている。
「へへー、ってミサカはミサカは一人でニヤけてみたり」
柔らかな布団を口元まで引き上げて、こもった声で打ち止めは呟いた。
昨晩、衝撃音と共にドアップで現れたやたら血だらけのでろでろしたアレは思い出すのも恐ろしいが
その経緯があって今の状況があると思えば、結果オーライ以上と言っても過言ではない。
睨まれたり凄まれたりそっけない言葉をかけられたりして、それでも最終的にその腕を貸してくれる事を許してくれた
数時間前のやり取りは、少し思い返すだけで唇の両端をあげるのに充分な役割を果たす。
ニヤけた唇をそのままに、すっかり目の覚めてしまった健康児な打ち止めはもうしばらく一方通行の寝顔を堪能する事に決めるのだった。


「おはよーございます、ってミサカはミサカはあなたに朝の挨拶をしてみる」
幸福な二度寝から一方通行を呼び起こしたのは、またもや太陽の光…では無かった。
「……」
先ほどから自分の頬につんつんと当たってくる柔らかな感覚。打ち止めのひとさし指のようだ。
一方通行が目を開けたのを目の前で発見した打ち止めは、にっこりと笑顔で元気良くご丁寧に朝の挨拶をしてみせた。
指の動きは止めないままに。
"しばらく"一方通行の寝顔を堪能し終えた彼女は、彼の何一つ荒れていない肌で遊び始めていたらしい。
「うぜェ」
寝起きの掠れた声で、一方通行は自分の頬をつついてくる指を容赦なく振り払った。
「あなたのほっぺって意外と柔らかくて気持ちいいよね、ってミサカはミサカはもうちょっと味わいたかったり」
「近付けンな。それと起きてンならいい加減にその頭避けろ」
近付いてきた手を払いのけ、一方通行は更に痺れの増した気がする腕を打ち止めの頭が落ちない程度にくいっと動かす。
おおっ、と言いながら打ち止めは割と素直にベッドシーツの上へと頭を下ろした。
ようやく開放された腕からは一気にこもっていた熱がひいていく。
それは開放感と、そしてまたもうひとつ別の感情を一方通行に与えていたが、それが何かという事を彼はいちいち意識はしない。
自由になった腕を数度折り曲げながら、一方通行はゆっくりとした溜息をついた。
その隙をついて、打ち止めは再び彼の意外と柔らかいらしい頬をつつく。
「オイ、ヤメロ」
「ねぇねぇ」

「おはよーございます、ってミサカはミサカは改めて朝の挨拶をしてみたり!」
太陽なんかよりもずっと輝かしい笑顔の少女は、一方通行が挨拶を返すまで何度も何度も繰り返すのだった。























2010/10/08
腕の中じゃねぇ、というツッコミは受け付けます
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