子供の体温はどうしてこうも高いのか。
背中にべったりとくっついてきた熱に、一方通行は目を開けた。
「オイ、くっつくな」
「あれ、起きてたの?ってミサカはミサカは驚いてみる」
「テメェが忙しないおかげでな」
もう日課になってしまった(させてしまった)一緒に布団の中に潜り込んでから、三十分は経っただろうか。
一方通行と同じベッドの上にいる打ち止めは、落ち着く体勢を見つけるまでにやたらと体勢を変える事がよくある。
毎日毎日何度も何度もモゾモゾ動いて、そのくせ結局はこうだ。一方通行の背中に、まるでコアラみたいにして抱きついてくる。
「熱ィから離れろ」
「ミサカはその命令を拒否します、ってミサカはミサカは事務的に答えてみる」
「……」
言いながら、離れるどころかますます力を加えてくる。
一方通行は自身に絡みつく細く小さな手首をつかむと無理やり引き剥がし、そのまま体の向きを変えた。
近い。向かい合った打ち止めの頭が、顎のすぐ下にあるのだ。
一方通行が振り向いた事に気づいた彼女が顔を上げるものだから、その距離が更に縮まるのは簡単な事だった。
とは言え、一応思春期にあたる少年の胸が無駄に高鳴る事は無い。
否、初めの数回こそは確かに思うところがあったはずだ。しかし慣れというのは恐ろしいもので、どうやら彼にとってこの状況は既に日常の一部になっているらしい。

暗闇の中でも、距離が近いと表情は割と見えるもので。一方通行は打ち止めが嬉しそうに笑うのをはっきりと確認した。
――甘やかしすぎだ。
「あなたって天邪鬼?ってミサカはミサカはぎゅうって抱きついてみたりーえへへ」
「うるせェ、早く寝ろ」
自身を嘲笑ってやりたくなるぐらいに大切なクソガキは、つまりはこの場所が一番落ち着いて眠れる場所だった。
なんとも甘ったるく情けなく自意識過剰で、だけどそれが事実。
心臓がくすぐったくて仕方が無いが、少女が落ち着いて眠る為なら第一位はいつだって情けなくなれるのだ。

今度は前から背中にかけて回る腕は、さっきよりもずっと熱い。
背後から抱きつかれるよりも、こちらのほうが隙間なく触れ合えてしまうのを知ったのはいつだった?
「だっこして欲しい、ってミサカはミサカは甘えてみたり」
満足したのか鎖骨あたりに頬を摺り寄せてくる打ち止めが呟く。
聞き流してしまえば良いものを、一方通行の耳はそれを心地良い音として受け取ってしまう。
自分の腕が少女を寄せるように彼女の背中に回る事に気づいても、彼はそれを止めなかった。
ひどく熱くて、それでも離れたくないのは、どっちだ。
「あなたもあったかいね、ってミサカはミサカは教えてみる」
「……移ったンだろ…」
声には出さず小さく笑うのが震動してきて、一方通行は黙れと言いたげに打ち止めの頭を軽く叩いた。
似合わない。心底似合わないと、そう思う。
言葉も、行動も、思いも、全てが自分だとは考えたくもない。だからそれら全てを眠気のせいにして、少女をきつく抱きしめる。
(熱ィ……)
くっついてくっついて、いっそ溶けて混ざり合ってしまっても可笑しくはないくらいに。
いつの間にか目の前にあった柔らかな頬に、一方通行はそっと手を当てる。言い訳の材料さえ見つけてしまえば、なんだって良い。
「明日は天気良いかなぁ、ってミサカは、ミサカは…あなたと出かけたいなって、こっそりデートのお誘い…」
今にも蓋をしそうな瞼で、眠気に睫毛を震わせながら、打ち止めは一方通行の手に自分のそれを重ねた。
布団を頭までかぶって、引き寄せ合って、額と額がくっつく。
唇がすぐそこにある状態で、内緒話をするみたいに囁き合って、そうしてもっと抱き合って。
全部、全部が眠気のせいだ。
夢に堕ちて覚めるまで、絡みあう足と足の解き方などは知らないし、知らなくていい。
「ミサカはここが一番落ち着くかも、って大胆告白してみる…」
「……いーから、寝ろっつゥの」
薄く汗ばむ額に口づけて、少年と少女は目を閉じる。
熱く、砂糖よりも甘い夢の中へ、一緒に。

























2011/03/06
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