「ミサカとあなたってそんなに違うかな?」
散らばった前髪を撫でて、あらわになった額に口をつけたところで少女が問う。
一方通行は怪訝な顔をして、少女の肌から唇を離した。視線と視線が交わったところで、再び同じ質問を投げかけられる。
ベッドシーツの上に縫いつけて絡み合わせた指が、くいと動き答えを急かす。
シチュエーションに似合わない言葉に、一方通行は理解出来ないと眉を潜めた。わざわざ聞くような事でも無いだろう。
「一緒だったら気色悪ィだろ」
「そうじゃなくて〜……ってミサカはミサカは口篭ってみたり……」
益々意味が分からない。一方通行の視線は無意識に鋭いものとなる。
別に怒っている訳では無いのだが、シーツに縫いとめられたほうの打ち止めが、一瞬気まずげに視線を外した。
要領を得ない口と共に、柔らかな肉つきの五本の指がもじもじと動いている。
「と、友達に」
「あン?」
腕を立てたまま答えを待つのは疲れるし、何より面倒だ。
仕切り直すようにしてもう一度同じ場所に唇を落とし、目尻や頬にも同じようにして、次いで唇に触れる寸前だった。
「……あまりお似合いに見えないんだって、ってミサカはミサカは衝撃の事実を伝えてみる」

どことなく機嫌の悪い声で告げられた言葉に、一方通行はわずかに目を見開いた。
なるほど友人に自分たちの外見についてツマラナイ事を言われたようだが、彼が疑問に思ったのはそこでは無い。
「俺ン中にオマエの友達に会った記憶が無ェンだけどよ」
街中で見かけられた、という可能性は即座にゼロだと判断する。
打ち止めと会うのは二週間ぶりになる。前回会った時は今日と同じように彼女が直接一人暮らしのマンションを訪れてきて、外出はしていない。
それよりも前の出来事だったとして、今更になって報告するなんて事は不自然だ。
ならば、どうしてこちらからすれば只の他人が自分の事を知っているのか、答えは聞かなくとも想像がつく。
しまった、と口を半開きにした打ち止めと、ベッド脇のガラステーブルの上に置かれた彼女の携帯を交互に見やって、一言。
「全データ消去しろ」
「いっ、いやだーっ!ってミサカはミサひゃうああ!」
全力で抗議しようとした打ち止めが間抜けな奇声をあげたのは、制服のワイシャツの中に滑り込んできた白い手に横腹を撫でられたからだった。
「盗撮ばっかしやがって……」
「あなたが撮らせてくれないのが悪いんだもん、ってミサカはミサカは絶対死守するんだからってやだやめてくすぐらないでぇ!」
隙間から器用に弱い所をくすぐってくる指先から逃げようと、打ち止めはベッドの上でもがく。
が、繋がれていた両手はいつの間にか少年の細腕一本で纏め上げられ、足の上に跨られている状態では満足に動けるはずが無い。
女性よりも女性的な腕に、どこにそんな力があるのだろうと、打ち止めはいつも不思議で仕方なかった。


顔の良し悪しを意識したり、周りと比べたりした事は考えてみれば無いなと、一方通行は思考を巡らせた。
ノロケでもなんでもなく、打ち止めの造形は一般的に見て高い位置にくるのは分かる。 幼さを残した顔は、美人だとか言うよりは可愛い部類に入るのだろう。
自分の外見にしたって、特に上だの下だの意識した事は無い。ただ、男らしくはないという点だけは理解しているが。
それでもなんとなく、他人から見て打ち止めのような少女には、所謂アイドルみたいな風貌の男が似合うのだろう。多分。

と、そんな解析をしたところで、一方通行にはどうだって良い事だ。
今こうして組み敷いて、触れているのが真実なのだから、『多分』なんて構想は無意味でしかない。
体力を削られ荒げる息を吐き出す唇にようやく触れて、呼吸の下手な少女の為にたまに隙間をあけてやる。
話は終わってないと、不満そうに手に力を込めながらも、打ち止めは必死に一方通行からの口付けに追いつこうとしていた。
「んっ、きゅ、きゅうけい、ってミサカはミサカは要望を出してみる」
いつの間にこんな関係になったかなど思いを馳せる事はないけれど、もう随分と触れ合っているはずなのに、いつまで経っても慣れる素振りが無い。
一方通行にとってはそれが楽しくもあり、決して口には出さないが、可愛らしいとさえ思う。
「はえーよ」
馬鹿にするような声色で、唇をつよく押し付ける。甘くて不味いフルーツ味をしていた唇が、段々と皮膚の味になっていく。
こちらのほうがよっぽど良いし、どうせすぐに拭ってしまうものなのに毎回味を変えてくるのは、それなりのこだわりらしい。

「ミサカ、あなたに似合うようになったほうが良いのかなぁ……」
「まだ言ってンのかよ」
どこをどう変えるつもりなのかは知らないが、心底どうでもいい。大体、今の打ち止めに何の不満も要望も無いのに。
ここで砂糖を吐きそうなセリフの一つでも言ってやれば良いのかもしれないが、それは一方通行には受け入れられない話だ。
心中では割と自分を笑ってやりたくなるような感情を抱えているのに、言葉にして伝えるというのはどうにも敷居が高すぎる。
それならば行動で示したほうが簡単だし、むしろそちらのほうが表現としてはストレートでは無いか。
「……あー、面倒くせェ……」
それなりに真剣に考えてしまっている自分に気付いて、一方通行は重たい息を吐き出した。
打ち止めがムッとするのが見えて、そうじゃないと頭を撫でてやる。
背中に手を差し込んで、背筋を人差し指でなでる。ビクつく体を抱き寄せて、彼は思案した。
女の子には言葉も必要なの、と随分前に口論になった時に言われた事を思い出したからだ。

「……俺が満足してンだからそれで良いだろォがよ」

耳元で、小さな声で届ける。目と目を合わせて、なんていうのは性に合わない。
顔を見なくとも、打ち止めが驚いているのが分かった。少しして、恥ずかしげに笑う声が聞こえてくる。
「それって凄いころし文句かも、ってミサカはミサカはニヤけてみる」
「うるせェよ」
頬ずりしてくる少女をきつく抱きしめながら、彼は彼女の耳たぶに舌を伸ばした。























2011/09/12
将来の通行止めを観察していたいです

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