「神様は願い事をいっぱい叶えなきゃいけなくて大変だね、ってミサカはミサカは想像して途方に暮れてみる」

科学の街で科学の為に科学によってつくられた、そんな子どもに言われては、当の神様と言うやつも形無しだろう。
しかし至って真面目な顔で呟く少女に、こちらも科学まみれの少年は思わず考えこんでしまった。世界に住まう人間のどれだけが、人任せに願いを空へ投げるのか。
くだらない、そんなものは信じていない。そう言い切る事には些かの引っ掛かりがあった。

それを神と呼ぶのなら、少年は既に祈っている。
絶望の淵に追いやられ、信じるべきは己の力しか無いのだと歯を噛み締めては、しかしきっと、心のどこかで無意識のうちに。

――形無しだと言うのなら、自分こそがそうだ。
祈りも、希望も、光も。『学園都市第一位』を構成するには不似合いな要素が、たった一人の少女の為に次々と生まれていく。
気がつけば、この体を構成するモノはすっかりと入れ替わっていた。
文字通り化けの皮が剥がれていくのを、この手は止める事が出来ない。相応しくないと嘲笑いながらも、ただ見つめている事しか出来ない。
馬鹿みたいにボロボロと剥がれていく赤黒い血色の壁が、もう手遅れだったはずの澱みが、小さな手で浄化されていく。
それが堪らなく熱く、心地良い事を知ってしまったのだ。手放す術を探す事も、放棄した。
人生を変えられた。そんな大袈裟なような真実をあっけなく作り上げてしまった少女を想い、幾度天を仰いだだろう。

「それが出来るから神様なンだろ」
誠意も何もない声色で、一方通行はなんとなく、重たい雲の広がる空に視線を投げた。雲の向こうにいるのか、いないのか。
宗教心のカケラも無い人間達から、ただ都合の良い事を都合の良い時だけに利用させてくれる神様は、よっぽど心が広い。
「何か欲しいのかよ?」
「んん?」
ふと浮かんだ疑問に、打ち止めはその質問をされる事自体が予想外だとばかりに首を傾げた。
唐突に神様だなんだと言うのだから、欲しい物でもあるのかと思えばそうでも無いらしい。
問われて初めて『欲しい物』を考え始めた打ち止めを見やり、一方通行はもう一度、確証のない空を見上げた。

「ミサカはでも、神様には特に用が無いかも、ってミサカはミサカは言ってみたり」
袖を引っ張る腕に任せ、ポケットに入れていた白い手が外気に触れる。
氷点下の空気に震えた手は、すぐに幼い体温に包まれた。子ども体温がじわじわと染みていく。
「だってあなたがいるもんね、ってミサカはミサカはこっ恥ずかしく伝えてみる」
「……そりゃ、たかってンのかァ?」
「ちーがーうー!ってミサカはミサカは首を振りつつミサカは今パフェが食べたいとねだったみたり」
「やっすい願いだなァ……」
緩く繋がれた指先は、気がつけば離れる事を拒みしっかりと互いを捉える。
今この場所に、この少女と存在出来ている事は、一体誰の計らいなのだろう。
この結果は自身が願ったからなのか、それとも。


居るか居ないかも分からぬ存在に、世界は想いを託す。
けれど少女の願いを叶えるのは、崇高でも廉潔でも無い、唯一人。























2012/01/09


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