組み敷いた体の小ささに、視界が揺らぎかけた。簡単に押し潰されそうな肢体の柔らかさが、じわじわと理性を侵していくのが分かる。
引き返すなら今のうちだ。そうやって頭の中のもう一人の自分が言い聞かせても、首を横に振るのも結局は自分自身だ。
酸素を求めて深く息を吸ってみても鼓動が邪魔をして、満たされずに苦しさが残る。これは罪悪感か、それとも高揚感か。

「……、」
今にも泣き出しそうな顔をしながら、それでも頑なに視線を外そうとしないから、ああこれで良いのだと自惚れる。
「止めるか?」
ほとんど意味の無い質問を投げかけながら、一方通行の手は彼が押し倒した打ち止めの頬を撫でた。緊張しているにしたって、熱い。
戸惑いがちに瞬きを繰り返して、首を振る少女の手が重ねられる。いやだと言ったつもりであろう無音の唇の動きに、理性の糸が一つ、解けていく。
「……中断とか、しねェけど」

汗をかいているから嫌だとごねるから(どうだっていいのに)、先にシャワーを浴びさせた。
タオル一枚身に着けて、真っ赤な顔でうつむく少女の手を無言で取る。ペタペタと、フローリングを鳴らす足音だけが聞こえた。
かける言葉が見つからず、そのまま、とりあえずは頭を打たないように。枕が一つのシングルベッドに、自分以外の者が皺を作るのは初めてだった。
まるで台本に書かれたような、ありきたりな展開。これじゃあ自分達がそこらにいる『恋人同士』みたいだ。
そんな自己紹介は不要だけれど、この関係性に名前を付けなければならないのならそれで良い。元より、他の誰かに触れさせるつもりなど無いのだ。
つまり自分達は恋人同士で、今はベッドの上で、少女は裸同然で、セックスをしようとしているのが事実だった。
(……ガキだったくせに)
ガキだと、思い込んでいたくせに。


落とした影が動くと、打ち止めはぎゅうを目を瞑る。
長いまつげが震えるまでに強く閉じられた瞼を大袈裟だと思いながら、同時に湧き出る気持ちは一方通行にとって擽ったいものだ。
宥めるように口付けた頬に反して、親指で触れた唇は、未知の訪れに怯えているのか冷えていた。
安いドラマみたいなセリフを吐く事も出来ずに、また頬に、それから額に、乾いた唇で触れるだけのキスを繰り返す。
このまま噛み付いてしまいたい衝動と、少女を壊したくない臆病者がせめぎ合う。
閉じられた瞼がそっと持ち上がるのを見て、一方通行は打ち止めから僅かに距離を取った。
目が合って、リップクリームの取れた唇に自分のそれを重ねる音は酷く静かに、二人の間を行き来する。
「あ……」
不器用な呼吸と共に溢れる小さな声も自分のものに出来たなら、どれだけ満足するだろう。
水を得ては乾いていく。舌の上に乗った少女の味にまんまと魅了されるのは、容易な事だった。
頼りない布にギリギリで隠された小さな膨らみが上下している。いっそ一気に剥ぎ取ってやろうかと思いながら、蘇る苦い思い出には呆れるだけだ。


一つ、また一つと、糸が解けていくのを止められずに。
追い詰められた声を聞く度に、震える手を掴む度に、苦しめているのは自分なのだと自覚する。
自覚、なんてものをした所で踏み止まる術は、もう持っていなかった。余裕など、初めから無い。
「あ、ふ……からだ、あつい、ってミサカはミサカは戸惑っていたり……」
「そォかよ」

呼吸を促して、きっと全然優しくない優しさを精一杯引っ張りだしては、泣きそうな顔で笑う姿を焼き付ける。
「……あついから、ぎゅってして、ってミサカはミサカは……」
腕の中で傷つき汚れていく少女の要望に、掻き抱くようにしてきつく閉じ込めた。
全て奪う代償に、飽きるほど甘えさせてやるから。だから痛みを与える事に、喜びを感じさせて。























2012/05/13






↓はじめキスシーンでこんな会話がありましたがあまりに間抜けでした↓
「……歯ァ磨いて無ェとか」
「みっ、磨いたもんばかあ!ってミサカはミサカはあなたの空気の読めなさに怒り……って違う!」
「なンだって良いつってンだろォが……オマエ、これからする事分かってンのかよ」


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