欲しい、と思った瞬間に自分の抱く気持ちに気付く。
直後訪れた戸惑いに鼓動が乱されて、何食わぬ顔を装い手を離した。手のひらに残ったぬくもりがやたらと生々しく感じられて、喉が乾く。
何も知らない顔でいつものように笑う少女を目の前に、今度こそハッキリと自覚する。

ああそうか、欲しくてたまらないのだ。
自分は彼女の事を、手に入れたいと思っている。この中に閉じ込めて、放したくないと願っている。

此処にいるのは『女』なのだと分かってしまったら、もう終いだ。
重ねてきた思い出の全てが、一斉に色を変える。ゆるやかに積み上げられた壁がグズグズと崩れだす。
ただの(何よりも大切な)家族もどきは、自身の周りにはもうどこにも存在していなかった。
唐突に全身を占拠したそれの対処法も見出だせずに、抱く感情は、何よりも少女を傷つけたがっている。
瞳も、声も、肌も、体温も、においも、少女を作り出すものは一から十までをだ。誰の手でもなく、此の手で。
嘘だと否定したくとも、輪郭を得た思いは止めどなく溢れ出る。望みを掻き消そうと、一方通行は自身の心臓を握った。
(ヤメロ)

手を伸ばしたら、届いてしまう。
届いたら、受け止められてしまう。
受け止められたら、きっと捨ててしまう。
紡いできた、必死に守り続けてきたもの達は呆気無く失われるだろう。


「大丈夫?ってミサカはミサカは心配してみたり」
「何が」
「なんだか顔色が悪いように見える、ってミサカはミサカはあなたの顔を覗いてみる」
柔らかな髪を揺らして覗き込む少女の唇の動きが、よく分かる。呼吸の音を間近に感じて、逃げるように視線を逸らす。
「……、元からだろ」
視線の距離に、溺れそうだった。視界に映った余計なものを全部消して、ただそれだけで埋め尽くす事が出来たなら良いのに。
まるでずっと前から気付いていたかのように正直に渦巻く想いが、体の熱を上げる。
警戒もせずに近寄る存在を遠ざける事も叶わずに、掻き抱きたがる腕で拳を握った。壊したくてたまらなく、壊したくなくてどうしようも無い。

変わらない瞳の色が、責め立てる。
これまでも、この先も、ずっとその目で見つめられていくのだろうか。
永遠に、何も変わらずに。
(変わらねェほうが、イイに決まってンだろ)
ふざけるな、と一方通行は口の中で呟いた。何処かで都合の良い展開を待っている脳は、どこまで少女に甘えれば気が済むのだろう。
消しては生まれる、あまりに出来過ぎた未来の可能性に、必死に抗う方法を探してはまた流されそうになる。
熱くなった指先が触れたら、全部伝わってしまうのかもしれない。その良し悪しを決めるのは、一体誰なのか。

「あなた」
欲しくて欲しくて、枯渇する。
(……オマエは)

望んでいるのは、誰なのか。























2012/08/15


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